【健康】脳年齢の改善と動脈硬化改善
「物忘れ」が気になる中高年の認知症予防成分プラスアミノ酸摂取研究
「物忘れ」を自覚する中高年を対象に、DHA、イチョウ葉エキス、レシチン、ビルベリーエキスなど脳機能の改善にエビデンスのある成分に、アミノ酸(アルギニン)とビタミンを加えた混合物(DGA500)の摂取でどのような生理学的応答が見られるか検証を行った。
エビデンス
[結果]
1)脳年齢が摂取3ヵ月で有意に低下し、実年齢平均を下回った。摂取後1ヵ月で上昇し、再び実年齢を上回った。
2)血中DHAが摂取1ヵ月で有意に増加した。摂取終了後は低下する傾向が見られた。
3)必須脂肪酸欠乏を示すT/T(Trien/Tetraene)比は開始時に欠乏(0.02以上)を示していたが摂取3ヵ月で有意に改善した。摂取1ヵ月後に有意に上昇し、再び必須脂肪酸欠乏を示した。
4)血中ホモシステイン値が摂取1ヵ月で有意に低下し、摂取期間中維持した。 摂取終了1ヵ月で有意に上昇した。
[考察]
本研究に先行して、認知機能の改善にエビデンス報告のあるDHA 2)や イチョウ葉エキス 3)などの成分を組み合わせたサプリメントを試作し、認知症病棟に 入院する軽度認知症高齢者患者による臨床試験を実施した。その結果、患者の認知機能が 改善したことを報告した(第31回日本臨床栄養学会.2009)。 今回新たにアミノ酸(アルギニン)、ビタミンを追加し、中高年に摂取してもらった ところ脳年齢の低下がみられ、精神作業能力、認知機能の改善が確認された。
DHAはω-3脂肪酸に分類される必須脂肪酸で、厚労省の定める日本人の食事摂取基準では EPAとあわせ1g以上の摂取が望ましいとされる。DGA500に含まれる必須脂肪酸はDHAのみ であり、DGA500の摂取によってDHAの血中濃度の上昇も確認された。驚くべきことに、 DHAだけでなく必須脂肪酸のEPAやアラキドン酸の血中濃度も増加し、かつ必須脂肪酸欠乏が 解消され栄養学的にも有用であることがわかった。生体内での脂肪酸代謝では様々な 不飽和化酵素、鎖長延長酵素が関っており、DGA500に含まれる成分がこれらの酵素活性、 発現に影響を与えた可能性も考えられる。これらの検証は今後の課題だが、脂肪酸代謝を 制御することで有用な必須脂肪酸を高め、生活習慣病の予防にも貢献できる。
さらに、認知症、動脈硬化の危険因子として報告のあるホモシステイン 4、5)が低下し、 認知症、動脈硬化の予防に有用であることが示された。1日12gアルギニンの摂取でホモ システインが低下する報告 6)もあるが、1日分のDGA500に含まれるアルギニンは0.5gで あり、アルギニンに加えその他の成分が複合的に寄与したと考えられる。
今回注目すべきは、脳機能によいとされる複数の成分に加えアミノ酸を“少量”ずつ組み 合わせた混合物で、脳機能だけでなく様々な有用性が確認されたことである。単一の成分に よる研究は多く実施されているが、少量ずつ一緒に摂取することで相乗効果を発揮したと考 えられる。さらに各成分の最も有効な組み合わせを明らかにする検証に期待したい。
文献
1)梶本修身, 他 : 新薬と臨床. 49 : 104-115, 2000.
2)Levi YF, et al : Arch Neurol. 63 : 1545-1550, 2006.
3)Le Bars PL, et al : JAMA. 278 : 1327-1332, 1997.
4)Seshadri S, et al : N Engl J Med. 346 : 476-83, 2002.
5)Wald DS, et al : BMJ. 325 : 1202, 2002.
6)West SG, et al : J Nutr. 135 : 212-217、2005.
出典
大谷勝他:認知症高齢者が長期的にサプリメントを摂取する栄養学的意義について.第31回日本臨床栄養学会.2009
大谷勝他:認知症予防のためのサプリメントを「物忘れ中高年」が長期摂取する栄養学的意義について.第32回日本臨床栄養学会.2010
大谷勝他:認知症予防のためのサプリメントを「物忘れ中高年」が長期摂取する栄養学的意義について(第2報).第33回日本臨床栄養学会.2011